相続人が不明な場合の解決方法

相続の手続きについて

相続手続きで大変困るのが相続人がいるのか不明な場合や相続人に連絡が取れないなど所在が不明な場合です。
そこで今回は相続人が不明な場合の解決法について解説していきます。
また、相続人探しの費用や非協力的な相続人への対処なども紹介していきます。

相続人が不明とは

内縁の夫婦や離婚歴がある場合などで、被相続人の相続人が存在するのか、またどこにいるかもわからないということがあります。

事例1
内縁の夫が亡くなったが、親族などがいるのかわからない。
事例2
両親が離婚しており、父親とも連絡を取っていない。
事例3
家を出て行方がわからない家族がいる。

相続人に連絡しないとどうなる?

被相続人が死亡すると銀行の口座は凍結されます。
また被相続人の所有する不動産も相続手続きをしなければなりません。
相続手続きをするには遺言書か遺産分割協議書が必要となります。
遺産分割協議書は相続人同士で話し合い、全員の合意をもって署名捺印をして作成します。
そのため、相続人全員の合意がない遺産分割協議書は無効となります。
被相続人の戸籍を辿っていくと知らない相続人がいたということもあり得ます。
従って、相続人を確定させる作業というのは非常に大事なことなのです。

相続人を探す方法

相続人を探すには、まず亡くなった人の除籍謄本を取得します。
その除籍謄本で配偶者や子供がいるかどうかを確認します。
配偶者については除籍謄本に離婚歴や配偶者の死亡が明記されていれば配偶者はいないということです。
次に子供の確認ですが、子供や兄弟姉妹は除籍謄本だけではわからないことがあります。
故人が過去に離婚して本籍を移した場合は前の婚姻に関する記載はないからです。
従って、転籍前の戸籍謄本や改製原戸籍など取得しながら個人の出生まで遡って、子供や兄弟姉妹の有無を確認していくことになります。

内縁の夫や妻が戸籍謄本を請求する場合

戸籍法によると被相続人の配偶者や直系尊属、直系卑属は戸籍謄本を請求することができますが、内縁の夫や妻は配偶者ではないため、通常、委任状が必要となります。
しかし、委任状を用意することは不可能なので、この場合、戸籍法第10条の2第1項を適用します。
役所で自己の権利を行使するため、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要があることを主張して戸籍謄本を請求します。
役所によっては担当者の経験不足などから拒否されることもあるので、その場合はしっかりと法律的根拠と権利を主張しましょう。

戸籍法
第10条
戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされたものであつて、当該記載が第二十四条第二項の規定によつて訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。
第10条の2
前条第一項に規定する者以外の者は、次の各号に掲げる場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
1.自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由

相続人が存在するのかしないのかわからない場合

相続人の存在,不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして,結果として相続する者がいなくなった場合も含まれる。)には,家庭裁判所は,申立てにより,相続財産の管理人を選任します。

相続財産管理人は,被相続人(亡くなった方)の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い,清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。
なお,特別縁故者(被相続人と特別の縁故のあった者)に対する相続財産分与がなされる場合もあります。
裁判所ウェブサイトより
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_15/

被相続人の相続人の存在が不明の場合、相続財産は法人となります。(民法951条)
その場合、利害関係人や検察官の申立てにより家庭裁判所が相続財産の管理人を選任します。
相続財産管理人は財産目録を作成して相続財産を明確にし、相続財産の処分をおこないます。
相続財産管理人は本当に相続人がいないのかを確認し、被相続人の債務を弁済したりしていきます。
相続財産管理人が選任されたことを公告して2ヶ月以内に相続人が名乗り出なかった場合は、債権者や受遺者に対して一定期間内に申し出るよう公告します。
管理人が知っている債権者や受遺者に対しては個別に通知されます。
この期間が経過しても相続人が現れなかったときは、管理人が家庭裁判所に相続人の捜索を申立てします。
家庭裁判所は一定期間を定めて期間内に名乗り出るよう公告します。
ここで権利を主張するものが現れ、相続を承認した場合は相続財産法人は消滅し、相続財産管理人の代理権も消滅します。
権利を主張するものが現れなかった場合は、相続財産の清算が開始されます。
残った財産は国庫に帰属しますが、特別縁故者(内縁の夫や妻など)から請求があれば、分与されます。

連絡が取れない所在が不明の相続人がいるとき

家を出ていってしまって連絡が取れず所在がわからないような相続人がいるときは不在者財産管理制度を利用する方法があります。

不在者財産管理人とは

従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に,家庭裁判所は,申立てにより,不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため,財産管理人選任等の処分を行うことができます。
このようにして選任された不在者財産管理人は,不在者の財産を管理,保存するほか,家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で,不在者に代わって,遺産分割,不動産の売却等を行うことができます。
裁判所ウェブサイトより
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html

少しややこしいですが、不在者財産管理人とは簡単に言うと行方がわからない人の財産を管理する人のことです。
数日程度では不在者とは言えず、大体1年以上行方がわからない場合は不在者と認められるようです。
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければなりませんが所在が不明の相続人がいる場合、協議ができません。
そこで不在者財産管理人を選任して、管理人が遺産分割協議に参加します。
遺産分割協議については原則、不在者の法定相続分を下回るような案は裁判所が許可しません。

もうひとつの方法としては失踪宣告をすることです。
失踪宣告がされると死亡したものとみなされるので、不在者の相続人を加えて遺産分割協議をおこなうことができます。
失踪宣告は所在が不明で、その不在者の生死が7年間明らかでないときに、配偶者や父母、相続人などが家庭裁判所に申立てすることができます。
失踪宣告が確定すると不在者は失踪期間満了時に死亡したものとみなされます。
しかし失踪宣告はすぐにされるものではなく、申立てをしてから1~1年半ほどかかります。

不在者財産管理人の費用

不在者財産管理人は場合によっては弁護士や司法書士などの専門家が選任されることもあります。
財産管理人から請求があった場合は家庭裁判所の判断で不在者の財産から報酬が支払われますので、弁護士や司法書士といった専門家が選任された場合、報酬が発生することになると思われます。
相続財産が少なく報酬が支払えないと予想されるときは、申立人から予納金として報酬相当額を家庭裁判所に納めて、それを財産管理人の報酬にすることがあります。
予納金が余った場合は返金されます。

相続人の住所調査はどうしたらいいのか

連絡先を知らない他の相続人に連絡を取りたいときは、どうすればよいのでしょうか。
電話か手紙、直接会いに行くという方法がありますが、住所か電話番号を調べる必要があります。
残念ながら電話番号を調べる方法はありませんが、住所を調べる方法はあります。
相続人の現住所を知るには戸籍の附票という書類を入手する必要があります。
戸籍の附票とは、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所記録がされている書類です。
戸籍の附票は本籍地の役所でしか発行してくれないので、相続人の本籍地を知らない場合や何も情報がない場合は調べる必要があります。
ではどうやって調べていくかというと、その相続人の戸籍を辿って調べていきます。
まずは被相続人の戸籍を出生から死亡までの一連で揃えます。
これは相続人を確定されるために重要な作業となります。
被相続人の本籍地を知らない場合は、被相続人の住民票を本籍地を記載してもらって取得します。
そこで判明した本籍地から被相続人の戸籍を取得していきます。
そして対象となる相続人が出てきたら、そこからその相続人の戸籍を取得して過去から現在に向かって辿っていきます。
最終的に現在の本籍地となる戸籍謄本が出てきたら、その本籍地に戸籍の附票を交付申請します。
戸籍の附票が取得できれば、そこに相続人の現住所が記載されていますので、それをもとに連絡することができます。

相続人探しの費用

相続人を探す場合、弁護士や司法書士といった専門家に相続人調査を依頼することもできます。
webから得られた情報ではそれぞれの料金は概ね下記の通りです。

弁護士
20,000~250,000円

司法書士
15,000~50,000円

行政書士
3,000~40,000円

上記の費用に加えて戸籍謄本を取り寄せる費用が実費で請求される場合があります。
また、相続人の数が多い場合、追加料金が発生する場合もあります。

相続人の住所を知りたい場合は弁護士などの専門家ではなく探偵や興信所に依頼する方法もあります。

探偵や興信所
着手金 5~100万円
成功報酬 5~50万円
調査費用 0~200万円

探偵や興信所の費用は弁護士のように着手金と成功報酬という形や調査費用のみ、というところもあります。
また基本料金と調査費用、時間給といった形もありますし、難易度によって報酬が変わるところもあります。
様々な料金形態があるので、見積を取って比較検討してみるのが良いでしょう。

相続人が非協力的な場合

相続人の住所を戸籍の附票で知ることができたら、相続の事情を説明することができます。
しかし、ここでいきなり遺産分割協議書の話や捺印を求めると相手も構えてしまい、協力を得られない可能性もあります。
従って、最初は相続に関する事情を記載した手紙を送ると良いでしょう。
人によっては手紙ではなく電話で話すことが礼儀だと考えている人もいますので、こちらの電話番号などを記載しておき、詳細はなるべく電話でお話するのが良いかもしれません。
また直接、自宅に伺って話した方が良い場合もあります。

遺産分割協議に非協力的な場合

最初の連絡から何も返答がない場合や、遺産分割協議に協力してくれないような場合は、遺産分割協議を行わないデメリットを説明するのも良いと思います。
相続税が発生する場合は、遺産分割協議をしなくても期間内に納付しなければなりません。
また、その相続人が亡くなってしまったら、次の相続人が地位を相続します。
するとさらに遺産分割協議が複雑になってしまう危険性があります。
遺産分割協議が整わない場合は、家庭裁判所で調停や審判となりますので、そういった負担やデメリットを説明してみましょう。

遺産分割協議がうまくいかないとき

遺産分割協議では相続人同士の話をよく聞くということも大事です。
「この家は長男である自分が相続して当たり前だ」
「母の面倒は私がしてきたのだから多めに相続したい」
「法定相続分通りに公平に分けるべきだ」
このように人それぞれに様々な考えや意見があります。
そのどれもが明らかに間違っているとは言えないため、話し合いが平行線を辿ることになります。
しかし、これは当然と言えることなので、そのことを前提として話し合うべきです。
「自分の意見が正しいから、違う意見を言う人はおかしい!」
という気持ちもわかりますが、それではいつまで経っても遺産分割協議は進みません。
遺産分割協議で重要なのは意見を対立させるのではなく、互いの意見を出し合い、どこかで折り合いをつけることです。
その着地点へと全員が向かっていくということが大事です。
従って、意見が異なることは当然というスタンスで、ではそれぞれの意見をまとめるにはどうしましょうか、という方向に持っていきましょう。

音信不通だった身内の相続放棄

反対に音信不通だった身内が亡くなり、相続の連絡が来たという場合もあるでしょう。
この場合、色々な感情もあるかと思いますが、なるべく遺産分割協議に参加し現状を把握しておくことが良いと思います。
もし、一切関わりたくないというのであれば相続放棄を選択する方法もあります。
相続放棄は相続の開始を知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません。
もし3ヶ月以内に決められない事情がある場合は被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に考慮期間の伸長を申立てします。
先順位の相続人が全員、相続放棄をした場合、相続権は第二順位の相続人や第三順位の相続人へ移っていきます。
しかし相続放棄した場合、代襲相続はされませんので、相続人の子が相続人となることはありません。

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