近年、注目を浴びている遺言書や相続ですが、遺言代用信託というものがあります。
ここでは遺言代用信託のおすすめの利用方法や遺留分との注意点、遺言信託や死因贈与契約との違いなどを解説していきます。
遺言代用信託とは
遺言代用信託とは生存中に自分の財産を受託者に信託し、自分が亡くなった後、配偶者や子供などの受益者に財産を配分する契約です。
通常、自分(委託者)が生存中は自分を受益者とし、自分が亡くなったら配偶者や子供を受益者とします。
例えば、自分が亡くなったら、受託者からすぐに葬儀費用を使えるように数百万円が受益者である配偶者に渡るようにしたり、財産管理が難しい未成年の子供でも毎月一定額を受給できるようにしたりすることができます。
遺言代用信託は銀行で実施している
遺言代用信託は銀行や信託銀行がサービスを実施しています。
銀行を受託者として委託者の死後、銀行が受益者に対して金銭の給付をおこないます。
もちろん銀行などではなく、子供や信頼できる親族などを受託者として遺言代用信託契約を締結することも可能です。
銀行や信託銀行が行っている遺言代用信託は一括で財産を受け取れる一時金払いや年金のように分割して受け取れる定額払い、またこのふたつを組み合わせた形で受け取る方法などがあります。
信託金は100~3,000万円くらい、信託期間は5~30年ほど、受益者(受取人)は一時金払いは1人、定額払いは5人といった形が一般的です。
多くの信託銀行では1,000万円まで元本が保証されています。
受益者は誰でも良いの?
法律上は受益者を限定していませんので、誰を受益者と指定しても構いません。
しかし、銀行によっては受益者を相続人などに限定している場合があります。
遺言代用信託の利用方法
遺言代用信託の利用としては以下のような場合が考えられます。
高齢で幼い子供がいる場合
事業承継者が充分に育っていない場合
受益者連続信託を利用したい場合
重度の障害をもつ子供がいる場合
重度の障害をもつ子供がおり、その子供は財産管理が困難だと思われる場合、自分の財産を遺言代用信託を活用して子供に分配する方法があります。
自分が元気なうちは子供の面倒をみることができますが、自分も年をとり、体力的にきつくなってくることもあるでしょう。
そんなときは自分と子供の生活費に相当する財産を信頼できる親族や銀行などに管理を委託して、自分の判断能力が低下したときや自分の死後も子供に必要な生活費が渡るよう契約することができます。
高齢で幼い子供がいる場合
高齢出産などで、子供との年が離れている場合、もし自分が亡くなってしまったら、自分の財産管理を子供に任すのは難しいという状況があり得ます。
こういったときも遺言代用信託を利用することで自分の死後も子供に財産が渡るようにすることができます。
事業承継者が充分に育っていない場合
遺言代用信託は事業承継にも活用することができます。
自分が経営する会社を将来は子供に継がせたいとします。
しかし、まだ子供が若く承継するのは難しいという場合、信頼できる部下を受託者として遺言代用信託契約を結びます。
自分(経営者)の判断能力が低下してきたときは、株式を信託して自分のために受託者が会社を運営していきます。
自分が亡くなった後は、承継者である子供が育つまで会社を運営し、子供が育ったら株式を給付するという方法もあります。
受益者連続信託を利用したい場合
本人Aと配偶者Bとの間に子供Cがいたとします。
その後、AとBが離婚してAはDと再婚しました。
AとDとの間に子供はいません。
Aは全財産を後妻であるDに相続させたいと考えていましたが、相続後にDが亡くなったら、Dの兄弟姉妹にその財産は相続されます。
Dが亡くなった後は、その財産が前妻との子供であるCに渡すことはできないのか。
民法では、こういった後継ぎ遺贈は認められていません。
そこで受益者連続信託を利用する選択が考えられます。
受益者連続信託とは受益者が死亡したとき、別の者が受益権を取得する信託のことです。
例えば、受益者甲の死亡後は乙が受益者となり、乙の死亡後は丙が受益者となるといったものです。
遺言代用信託は遺産分割協議が必要ない
通常の相続手続きは遺産分割協議を経ないと行えません。
遺産分割協議を終えるまでは被相続人の口座は凍結されてしまいます。
相続人を確定し、財産目録を作成し、それをもとに相続人全員で遺産分割協議をします。
相続人全員の合意をもって遺産分割協議書を作成し、やっと相続手続きがおこなえるようになります。
これだけでも大変な作業です。
しかし、葬儀の費用や当面の生活費など、早急に現金が必要な場合もあります。
こんなときに対応できるよう遺言代用信託があります。
遺言代用信託は遺産分割協議が必要ないのでスムーズに受益者へ必要な金銭が渡ります。
遺言代用信託と遺言信託の違い
遺言代用信託の他に遺言信託というものもありますが遺言代用信託と遺言信託は内容が異なります。
まず、この2つの違いを説明する前に遺言信託の説明をします。
遺言信託にも実は2つの意味が存在します。
1つは遺言による信託、もう1つは信託銀行などが行っている遺言信託です。
遺言信託の本来の意味は、「遺言による信託」のことを言います。
遺言による信託とは簡単に言うと信託を遺言に明記しておくことです。
例えば、遺言者の財産を息子を受託者として信託すると定めておけば、遺言者が亡くなったときに信託の効力が発生します。
もう1つの信託銀行が行っている遺言信託とは実は信託ではありません。
信託銀行が行っている遺言信託とは主に次のサービスをまとめた商品名のことを言います。
・遺言書作成のサポート
・遺言書の保管
・遺言執行
従って、遺言代用信託と信託銀行が行っている遺言信託は全く違うものになります。
本来の意味である遺言信託(遺言による信託)と遺言代用信託は同じ信託であることに変わりはありませんが、信託を遺言で行うのか、契約(遺言代用信託)で行うのかの違いがあります。
遺言による信託は遺言で行うため、民法で定められた形式に沿って正しく作成しなければ無効になる恐れがあります。
遺言代用信託のメリットとデメリット
それでは次に遺言代用信託のメリットとデメリットについて見ていきましょう。
遺言代用信託のメリット
メリットその1
通常、被相続人の銀行口座は凍結され遺産分割協議や相続手続きを経ないとお金を引きだすことができません。
しかし、葬儀費用など早急に金銭が必要な場合もあります。
遺言代用信託は上記のような手続きが不要なので、配偶者や子供などの受益者にスムーズに財産を引き継ぐことができます。
「自分が亡くなったら配偶者に葬儀費用と生活費として○○万円振り込む」といった指定もできます。
メリットその2
遺言代用信託では年金のように一定額を毎月振り込むといった形にもできます。
そのため、高齢者や未成年者、成年後見人など財産管理が難しい方にも安心して利用することができます。
メリットその3
遺言信託は遺言執行手続きが必要となります。
そのため遺言執行者が手続きをする時間もかかりますし、遺言執行者と相続人が執行に関してトラブルになる危険性もあります。
しかし、遺言代用信託は遺言執行が不要なので、こういった心配もいりません。
遺言代用信託のデメリット
デメリットその1
遺言代用信託は相続人などにお金を残せるという面では生命保険と似ています。
生命保険は「500万円 × 相続人の数」までは相続税はかかりません。
しかし遺言代用信託は生命保険のような非課税限度額がありません。
デメリットその2
遺言は遺言者の意思なので、遺言者が内容を変更することができます。
しかし遺言代用信託は契約なので、受託者の合意がないと内容を変更することができません。
遺言代用信託は遺留分に注意
遺言代用信託は死因贈与契約と似た性質をもっていることから遺留分減殺請求の対象となります。
従って、遺留分を侵害するような信託が行われた場合、他の相続人から遺留分減殺請求をされる可能性もあります。
無用なトラブルを回避するのであれば、遺留分を侵害しないような内容にしておくのがおすすめです。
銀行の遺言代用信託では、遺留分を侵害する内容は契約ができない場合があります。
また、受益者と相続人との間で遺留分減殺請求がされたなど紛争が起きているときは、信託財産の給付が停止されることがあります。
遺言代用信託は不動産でもできるの?
遺言代用信託の対象は金銭だけでなく不動産でも大丈夫です。
例えば本人名義の賃貸アパートを遺言代用信託で第三者に管理を委託して受益者(受取人)に収益を配分することも可能です。
但し、銀行が行っている遺言代用信託は通常、金銭が対象となっているので、銀行を受託者とした遺言代用信託では不動産を信託することはできない可能性があります。
この場合、土地信託や不動産管理信託といったサービスを利用することで可能になる場合もあります。
遺言代用信託は相続税がかかる
遺言代用信託は受益者が委託者から受益権を遺贈されたものとみなされます。
よって遺言代用信託で財産を分配された場合、相続税の対象となります。
そのため相続税の節税制度を利用することができます。
遺言代用信託は中途解約できる?
銀行によっては中途解約が認められないところもあります。
また、やむを得ず中途解約する場合は解約手数料が差し引かれる場合もあります。
遺言代用信託と死因贈与契約の違い
遺言代用信託は死因贈与契約と似た機能があります。
死因贈与契約とは「自分が亡くなったら家を子供に贈与する」といった具合に、本人(贈与者)が生存中に受贈者と契約を結び、本人が亡くなったときに効力が発生する贈与契約です。
従って、贈与者と受贈者の合意が必要となります。
死因贈与契約も当事者同士の契約なので、遺言のような方式がありません。
また死因贈与契約は贈与ですが、相続税がかかります。
遺言代用信託と死因贈与契約の違いとしては信託という点が挙げられます。
死因贈与契約は基本的には贈与者と受贈者の契約で、甲が死んだら乙に○○を贈与するといった内容です。
これに対して遺言代用信託はAの財産をBに信託して、BがCに給付するという形です。
従って、死因贈与契約の場合、受贈者である乙は財産の取得後、どのように財産を処分しても良いのですが、遺言代用信託の場合、信託期間中は信託目的に拘束されるので受益者であるCが自由に財産を処分することはできないという違いがあります。
遺言代用信託と生命保険の違い
遺言代用信託も生命保険も自分が亡くなった後、受益者や受取人に金銭が渡るという点では違いはありません。
遺言代用信託と生命保険の一番の違いは遺留分減殺請求の対象となるかどうかです。
遺言代用信託は遺留分減殺請求の対象となりますが、生命保険は受取人固有の財産となるため、原則的は遺留分減殺請求の対象とはなりません。(例外もあります)
また生命保険の場合、「500万円 × 相続人の数」までは相続税が非課税となります。
遺言代用信託の場合は相続税の節税制度を利用することはできますが、生命保険のような固有の節税制度はありません。
遺言代用信託の手数料や信託報酬などについて
銀行や信託銀行が行っている遺言代用信託では事務手数料や信託報酬、管理報酬などが発生します。
その他にも、申込手数料として契約締結時に信託財産の1~2%、中途解約した場合は中途解約手数料が発生します。
これらの手数料や報酬は必ず発生するものではなく、銀行や商品によってはかからないものもあります。
遺言代用信託の契約書
遺言代用信託は委託者と受託者との間で締結される契約です。
従って、遺言代用信託契約書を作成して契約すれば良いことになります。
口頭でも構いません。
しかし信託は本人の大事な財産を扱うことになるので、証拠能力の高い公正証書で契約書を作成するのが良いでしょう。
公正証書で作成する場合は委託者と受託者の戸籍謄本や印鑑証明書などが必要となります。
また、財産など目的価額に応じた手数料が必要です。
自分で作成するのが面倒な場合は弁護士や行政書士といった専門家に依頼するのも手です。
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